2026年4月24日
NSBT編集部
九州経済産業局(九経局)が間もなく、防衛航空機分野への参入の可能性を探る調査結果を公表します。航空機という高付加価値の分野に対し、中小企業の参入はこれまで困難とされてきましたが、九経局は「防衛から入るルートがあるのでは?」と考え、調査を始めたといいます。また、九経局は防衛の「地方調達」という新たな切り口から活路を見いだそうとしています。今回の調査の背景やポイント、狙いになどについて、担当する地域経済部製造産業課長の仁田純一(にた・じゅんいち)さんに聞きました。
民間じゃなくて、防衛から入る
――今回の調査はそもそも、どんな理由で始めたのですか?
経済産業省は一言で言うと「国の富」、国がどれだけお金を稼いでいくかを考えます。地方の出先機関としての九経局としては「地方の富」、地域の中小企業の「稼ぐ力」をどう高めるか、地方のものづくり企業をどう伸ばしていくかがミッションです。
これまでは自動車や半導体産業を中心とした対策が中心でしたが、「その次の柱」を考えたときに、航空機や医療機器などが候補に上がりました。
ただ、民間の航空機産業への参入は、かなり閉じた世界のようです。ボーイング社やエアバス社のような海外の航空機メーカーはもちろん、国内の大手重工メーカーとの取引には守秘義務があり、部品や機器の供給網(サプライチェーン)もある程度は固まっていて、新たに参入するのはかなり難しいとされています。加工の手順も方法も、測定や検査方法に至るまで、全て国際標準規格(ISO)や全世界共通で運用される基準に定められています。中小企業がいきなり大手企業と直接取引を始め、「取引口座」を開設するなど現実的ではありません。
そこで考えたのが、「防衛から入るルートがあるのでは?」でした。2年くらい前からヒアリングをしていくなかで、ちょうど防衛予算も伸びており、次期戦闘機(GCAP)の開発も進むタイミングで、そこを調べてみようと。民間からではなく、防衛から入る方法もあるのではないかという仮説を立て、防衛航空機の状況を調べるのを目的に調査を実施しました。航空機開発の機会は限られており、数少ない機会をとらえ、確実に国内企業の参画を進めて相乗効果を引き出すのが狙いです。

九州経済産業局製造産業課長の仁田純一さん
【出典】NSBT Japan撮影
興味はある。でもやり方が分からない
――企業の反応はどうでしたか?
九州の企業と全国の企業を合わせて約1197社にアンケートを送りました。回収率は27.1%の324社で、これは官公庁のアンケートとしてはかなり高い水準です。しかも、手書きでの記入式で、手間も時間もかかるものでした。そのアンケートの回答企業の、だいたい6割くらいの企業が「興味がある」と答えています。ただ、その一方で多かったのが、「どうやって入ればいいか分からない」という声でした。
――なぜなのでしょう?
やはり、「業界の構造が見えない」「どこに営業すればいいか分からない」「情報が少ない」――このあたりが大きいですね。あと、品質保証とか国際認証もかなり厳しいので、「技術があるだけではダメ」というところもハードルになっています。
実は「関心がない」企業も多い
――一方で、関心がない企業もあるのですね?
ありますね。やはり「航空機」と聞くだけで、ハードルが高いというイメージがあると思います。それに、九州には航空機産業の集積がほとんどないので「自分たちが入るイメージがわかない」というのはあると思います。
あとは、「現在抱えている本業が忙しい」とか、「無理して新しい分野に行かなくても」との判断もありますね。異業種への参入には新たな設備投資も必要ですし、資金面のハードルもあるので、ある程度規模のある、資本金が3000万円以上の企業のほうが関心は高い傾向があります。
さらに、発注されるロットが少ないという問題もあります。例えば数十個単位の発注などで、コストが見合わないケースもあります。技術的にも発注の頻度が低くて、たとえば5年に1回の受注では、10年でも2回しか経験できません。社内にノウハウが蓄積しにくいという問題もあります。
表面処理については、特にカドミウムメッキなどは対応企業が非常に少なく、九州でもほとんどありません。これは大きなボトルネックです。
無人機は「現実的な入口」
――参入はやっぱり難しいですか?
簡単ではないですね。ただ、チャンスがある分野もあります。たとえば「大物の加工」「特殊な溶接」「特殊な表面処理」――このあたりは、対応できる企業がそもそも少ないため、九州でも参入の可能性があります。実際に航空機関連の産業が集積する中部や関東でできない案件が九州に回ってきているケースもあります。
――九州ならではの強みはありますか。
あります。かつて官営の製鉄所があり、九州の中小企業は「一貫生産ができる」「加工技術が高い」といった特徴があります。自動車メーカーの製造拠点もあり、自動車産業で培った基盤が生きる可能性は十分にあります。近年は半導体メーカーも進出し、集積地として機能しています。半導体関連企業との連携も見込めます。また、九州は自衛隊への入隊に好意的な地域特性もありますし、経営者の中には「国のために役に立ちたい」と公言される方もいます。
――参入しやすい分野はありますか?
あります。無人機(ドローン)ですね。旅客機はもちろんですが、たとえば有人の戦闘機などになると、安全性を担保するためにハードルが一気に上がるのですが、ドローンに加え、ロケットやミサイルなどの飛翔(ひしょう)体は比較的参入しやすいと聞きます。無人機は、実際に中小企業が自社で開発しているケースも出てきています。そのため、いきなり航空機本体を狙うよりも、無人機や飛翔体から入るパターンもあり得ると思います。

「現場の困りごとは中小企業の技術で対応できる可能性が高い」と話す仁田さん
【出典】NSBT Japan撮影
実は一番重要かもしれない「地方調達」
――今回の調査で新しく見えてきたことはありますか?
特に大きな収穫は防衛装備庁が発注元となる「中央調達」と、地方の航空方面隊や各基地、駐屯地などが発注元となる「地方調達」について学んだことです。「航空機そのものではない領域」ですね。地方調達には地域の中小企業も多くの関心を寄せています。
――どういうことですか?
防衛というと、どうしても機体とかエンジン、あるいは防衛装備などに目が向くのですが、実際に話を聞いてみると、各基地の中にもニーズがかなりあるのです。防衛分野には、「装備管理」「基地運用」「生活関連」といった、中小企業が関われる領域も多くあります。
たとえば「物資や装備の管理」「庁舎や基地を含めた鍵の管理」「官舎を含めた湿気・カビ対策」「倉庫などでのロボットなどの搬送設備」「段ボールなど射撃訓練で的として使う資材」などです。こういう、いわゆる「現場の困りごと」です。
――意外と身近ですね。
そうなのです。しかもこれらは、中小企業の技術で対応できる可能性が高いのです。自衛隊は、基本的に自己完結型の組織で、外にニーズを出してこなかったのです。やれることは自分たちでやりきる。とはいっても慢性的な定員割れが続き、最近は特に人手不足感が高まり、外部の力を借りる必要が出てきていると思います。
最大の課題は「ニーズが見えないこと」
――それならすぐ参入できそうですね?
いや、それが難しいのです。一番の問題は、「ニーズが見えない」ことです。各地の防衛局に問い合わせても、「ニーズは現場、基地にある」と言われるのですね。しかし、企業が直接基地とつながるのはなかなか難しいので、そこをどうつなぐかが課題です。
――どう解決していくのですか?
一つは、企業に現場を見てもらうことですね。逆に、企業の技術を持ち込んで「こういうことができますよ」と提案してもらう。現場の方も、普段の業務では気づかない課題って結構あると思うので、外からの視点が入ることで新しい発見があるはずです。
「まずは関係を作る」入口として
――地方調達の魅力はどこですか?
正直に言えば、すぐに大きなビジネスになるとは限りません。ただし、「参入のハードルが低い」「関係性が作れる」――という意味では、すごく重要な入口だと思っています。いきなり航空機製造のサプライチェーンに入るのは難しいですが、こういうところから関係を作っていくことはできると思います。
それが一つでも事例としてできれば、そこからの横展開は十分可能だと思っています。自衛隊の方は異動も多いので、ある基地でうまくいったものが別の基地にも広がっていくというのは、比較的起きやすいのではないかと思います。
ですので、航空機という大きなテーマもありますけど、それと並行して、こういった地方調達というか、現場ニーズに対応する形での参入というのも、非常に重要なポイントだと思っています。
金額的には大きくないかもしれませんが、中小企業にとっては現実的な入口になりますし、そこから関係性を作っていくという意味でも価値があると思っています。
チャンスはある。ただ簡単ではない
――このサイトをご覧のビジネス関係者に向けて、アドバイスをお願いします。
参入は簡単ではないです。投資も必要ですし、覚悟もいると思います。ただ、「チャンスは確実にある」と言えると思います。今回の調査が、企業の判断材料になればうれしいですね。
【参考】
九州経済産業局/九州における防衛航空機産業の現状及び参入障壁・進出可能性調査