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【インタビュー】参入前に知っておきたい「外為法」の壁 ~メイガス国際法務事務所・大澤健太さんに聞く、輸出管理と安全保障ビジネスの実務~

特定行政書士・公認不正検査士の大澤健太さん
【出典】NSBT Japan撮影

2026/06/01 NSBT Japan 編集部
東アジア

2026/06/01

NSBT Japan 編集部

 

防衛産業への関心が高まっている。自動車部品や精密加工、電子機器、ドローンなど、民生分野を主戦場としてきた企業にも、新たな商機として防衛・安全保障分野が見え始めた。

 

一方、この分野には通常の製造業とは異なる法規制が存在する。なかでも避けて通れないのが、外国為替及び外国貿易法、いわゆる「外為法」だ。防衛装備品そのものだけでなく、部品、技術情報、ソフトウエア、さらに用途によっては一般的な製品までもが規制対象となる可能性がある。

 

外為法や安全保障関連の許認可を専門とする行政書士法人メイガス国際法務事務所の特定行政書士・公認不正検査士の大澤健太さんに、防衛産業に新規参入する企業が押さえるべき実務上のポイントを聞いた。



特定行政書士・公認不正検査士の大澤健太さん

【出典】NSBT Japan撮影

 

「国際法務事務所」とは何をするところ

――「国際法務事務所」と聞いても、一般の方には少しイメージしにくいかもしれません。メイガス国際法務事務所は、どんな業務を手がけているのでしょう。

大澤健太さん(以下:大澤)  まず「法律事務所」と「法務事務所」は違います。法律事務所というのは、弁護士事務所だけを指します。一方、行政書士や司法書士など、弁護士以外の法律系国家資格者の事務所は「法務事務所」と名乗ります。

 

そのうえで、行政書士法人というのは、許認可の取得に関する書類作成や申請支援をする事務所です。例えば飲食店を始めるなら飲食店営業許可が、古物営業なら古物営業許可が必要です。そうした許認可の書類を作り、行政に提出する仕事です。

 

行政書士法人にもそれぞれ専門分野があり、食品衛生法や古物営業法を専門にする事務所などがあります。その中でもメイガスは、外為法や安全保障関係の許認可を専門にするのが特徴です。

 

――「国際法務」と聞くと、ビザや永住許可、帰化申請などを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

大澤  一般的な国際法務事務所は、人の国際移動を扱うところが多いです。一方、弊所は「人」は扱いません。扱うのは「モノ」「カネ」「情報」の国際移転です。「海外にモノを送る」「海外からモノを入れる」「海外にお金を送る」「海外からお金を受け取る」、そして「海外に情報を提供する」「海外から情報を受け取る」。これらは外為法で規制されます。つまり、人は入管法など別の法律で扱われますが、モノ・カネ・情報は外為法の世界です。メイガスはその中でも、安全保障に関わるモノや情報の移転に特化した事務所で、安全保障関係の許認可を専門とする行政書士法人は弊所だけです(2026年5月27日現在)

 

外為法は「モノ」だけでなく「情報」も

――情報も外為法の対象になるのですか。

大澤  なります。外為法はそもそも貨物、つまりモノの輸出規制が出発点です。ただ、モノだけを規制しても十分ではありません。

 

ハイスペックな航空機用エンジンが規制対象だったとします。完成品のエンジンを輸出してはいけないというのは分かりやすいですよね。でも、「完成品は輸出しません。ただ、そのエンジンの設計、製造、使用方法を教えます」と言ったらどうでしょう。実質的には完成品を輸出するのと変わりません。そのため、外為法では技術の海外提供も規制しています。

 

――海外から技術を受け取る場合も対象になりますか。

大澤  はい。例えば、日本国内の普通の民間企業が、海外からミサイルの作り方の情報を教えてもらうとします。防衛産業でもない企業が、そうした情報を何に使うのかという話になりますね。そのため、海外から武器に関する情報を入れる場合や、武器関連技術のライセンス契約を結ぶ場合にも、外為法上の規制が関係します。外為法は、単に「モノの輸出を規制 する法律」ではありません。技術や情報の移転も見ている法律です。

 

――メイガスでは、申請書類を作るだけでなく、アドバイスもされるのですね。

大澤  そうです。実際に一番多い相談は、「書類を作ってください」ではなく、「そもそも許可を取らずに済む方法はありませんか」というものです。企業にとり、許認可対応はコストです。時間もかかり、心理的な負担も大きい。ですから、製品仕様を少し変えて許可不要にできないか、あるいは許可ではなく届出で済む方法はないかといった相談が多いです。

 

防衛産業では「普通の部品」が規制対象に

――製品知識や業界知識は、日々アップデートしなければなりませんね。

大澤  ずっと勉強です(笑)。弊所では理系の知識が非常に重要で、法務事務所では珍しく 理系人材も積極的に採用しています。例えば、バイオを学んだ職員には、生物兵器禁止法や外為法上の生物兵器関連規制の案件を担当してもらう。案件に合った知識を持つ人材を配置することで対応しています。

 

外為法対応というと法律業務に見えるかもしれませんが、実際には製品の中身が分からないと判断できない場面が非常に多いです。

 

――法律自体も頻繁に変わると聞きました。

大澤  少なくとも年1回は改正があります。特に重要なのが、リスト規制(軍事転用可能な高性能な製品やその設計・製造・使用の技術などを一覧で規制するもの)です。経済産業省の貨物等省令などで、どんな貨物や技術が規制対象になるかが定められています。このリストは毎年改正されます。しかも、多くは規制強化の方向です。

 

企業からすると、去年まで普通に輸出できたものが、今年から輸出できなくなるということが起きます。つまり、外為法への対応は一度済ませれば終わりではありません。継続的に追い続ける必要があります。

 

――防衛産業に新規参入する企業にとり、特に注意すべき点は何ですか。

大澤  今まで作っていたものとほぼ同じ製品でも、防衛業界向けに少しカスタマイズしただけで、防衛装備品として輸出規制対象になることがあります。

 

例えば、バッテリー。一般用途なら規制対象ではないことが多いです。それが軍用車の付属品として使われるバッテリーは、扱いが変わる可能性があります。バッテリー単体では規制されなくても、「軍用車の付属品」として規制対象になる場合がある。防衛産業への参入は、これまで関係なかった法令を気にしなければならなくなる、ということです。

 

――防衛装備品の製造や輸出入には、外為法以外にどんな法律が関係しますか。

大澤  まず製造に関しては、武器等製造法や火薬類取締法などがあります。これは経産省の許認可です。ただし、防衛装備品であれば何でも武器等製造法や火薬類取締法などの許可が必要というわけではありません。

 

例えば、デコイ(おとり)ランチャーのように、明らかに自衛隊向けに使われる装備でも、意外と武器等製造法の許可が不要になる場合があります。また、ミサイルを完成品として組み立てず、自衛隊側に未完成の状態で納入し、最後の組み立てを自衛隊の補給処や整備補給所で行ってもらうことで、火薬類取締法の許認可を不要とすることもあります。もちろん、こういった納入形態を自衛隊が認めるかどうかも含めて確認が必要です。

 

――最近相談が増えた分野はありますか。

大澤  電波法ですね。例えば、最近はドローンの普及でドローンジャマー、つまり妨害電波で敵のドローンを無力化する装置への関心が高まっています。ウクライナでもドローンが多用されています。光ファイバー型のように電波で操縦しないものもありますが、電波操縦型の自爆ドローンの場合は電子妨害装置や電子戦装置が重要になります。これらは電波法の許認可対応を検討する必要がありますので、防衛装備品関連でも電波法に関する相談が増えています。

 

違反すれば懲役、巨額罰金、輸出禁止も

――外為法、武器等製造法、火薬類取締法、電波法など、複数の法律が関係するのですね。

大澤  はい。しかも、どれか一つだけ許認可を取ればよいわけではありません。必要なものは全部取らなければならない。そこが大変です。

 

例えば、大砲や小銃のような装備品なら、「いろいろな許認可が必要そうだ」と想像しやすいですよね。一方、大砲に使う潤滑油の場合はどうでしょう。潤滑油は化学物質です。そうなると、化学系の法令が関係してきます。化学系の法令は広く見れば日本に40種類ほどあります。毒劇法、化学兵器禁止法、化学物質排出把握管理促進法、化学物質審査規制法などさまざまです。その中で、どの法律が関係し、どの法律は関係しないのかを一つずつ整理する必要があります。

 

防衛産業に初めて参入する企業の場合、「この許可を取ってください」という状態での相談ではなく、「そもそも何の許可が必要なのか分からない」状態から始まることが多いです。

 

――もし許可を取らずに輸出入や取引をしてしまった場合、どんな罰則がありますか。

大澤  外為法の場合、刑罰としては大量破壊兵器関連の貨物や技術を無許可で輸出した場合は懲役10年、罰金は法人の場合は原則10億円か、無許可輸出した目的物の価格の5倍以下のうちいずれか高い金額が上限です。大量破壊兵器関連以外の貨物や技術を無許可輸出した場合は懲役7年、罰金は法人の場合7億円、あるいは無許可輸出した目的物の価格の5倍以下のうちいずれか高い金額が上限です。

 

例えば、半導体製造装置のように1台300億円するものでは、罰金の上限が7億円だと、企業によっては「払ってでもやる」となりかねない。そのため7億円か、貨物価格の5倍のいずれか高い金額が罰金上限になります。300億円の装置であれば、1500億円が上限になります。

 

――刑罰以外にも制裁がありますか。

大澤  行政制裁もあり、例えば最大で3年間輸出禁止になることがあります。また、違反行為を行った会社の役員も同様に、最大で3年間輸出業務を担う会社の役員になれなくなることもあります。つまり、実質的に役員を続けられなくなるということです。

 

さらに、公表もされます。企業や個人の評判が損なわれることによって生じる「レピュテーションリスク」は非常に大きい。これは企業規模を問いません。100人規模の町工場でも制裁され、公表されることがあります。逆に、上場企業だから配慮される、ということもありません。外為法には「中小企業だから義務を一部免除する」という発想は基本的にありません。そこが怖いところです。

 

「自社製品であれば、設計・企画構想段階から相談してほしい」と話す大澤さん

【出典】NSBT Japan撮影

 

防衛参入では「ただの部品」がただの部品でなくなる

――専門家にはどのタイミングで相談するのがよいのでしょう。

大澤  自社製品であれば、設計段階、企画構想段階から相談していただくのが理想です。一番厳しいのは、設計も開発も終わり、量産試作も終わり、工場の製造ラインまで作った後で、「これは輸出規制該当品です」と分かるケースです。輸出予定の製品が外為法のリスト規制に該当すると、経産局などへ輸出許可申請する必要がありますが、輸出許可が下りるまでに3カ月ほどかかる場合もあります。 その場合、海外向けに輸出するには1件ごとに3カ月かかる、ということになりかねない。

 

ですから、最初から海外市場を考えるなら、設計段階で外為法を意識するべきです。例えば、国内向けモデルと海外向けモデルを分ける。海外市場を重視するなら、最初から規制に引っかからない性能に抑える。規制値が100以上なら、98で設計する。こうしたことは、実際に行われています。

 

――かなり戦略的ですね。

大澤  海外メーカーでは、輸出規制値を1%だけ下回るような設計をすることもあります。日本だけでなく、欧州連合(EU)などでも似た規制値が使われており、国際的に輸出しやすい仕様にしておくわけです。

 

商社の場合も同じです。海外展示会で「これは面白そうだ」と思った段階で、日本に輸入できるのか、自衛隊に納入できるのか、海外に再輸出できるのかを確認した方がいい。商品選定の前に、法規制対応を考えるべきです。

 

――自動車部品メーカーなどが防衛分野に進出する場合も、早めの相談が必要ですか。

大澤  そうですね。特に新規参入の場合ほど早めに相談した方がいいです。ただし、これは弊所の宣伝ではなく、公平性のために申し上げると、一次下請け(ティア1)企業から発注される場合は、ティア1が関係法令や必要な許認可について教えてくれることも多いです。

 

「これは自衛隊向けなので、こういう法令があります」「こういう仕様で作らないといけません」といった指導をしてくれる会社もあります。

 

ですから、ティア1企業の勉強会に参加する、経産省や防衛装備庁のホームページを確認する、防衛装備工業会や日本機械輸出組合などの業界団体から情報を取る。そうした取り組みも重要です。

 

その選択肢の一つとして、専門の事務所に相談する方法もある、ということです。

 

初回相談で「やらなくていい」と分かることも

――相談費用の感覚、目安が分からない企業も多いと思います。

大澤  弊所の場合は、初回は無料相談をしています。というのも「そもそも対応しなくて大丈夫です」「気にせずビジネスしてください」で終わることもあるのです。1日膝を突き合わせて話して「これは許可不要ですね」と分かるなら、それで終わりでいい。

 

一方、「これは複雑な許認可対応が必要です」「継続的に見ていく必要があります」となれば、そこで初めて契約して長期的に支援します。

 

――なぜ初回無料にしているのですか。

大澤  弊所はスポット案件を大量に受けたいわけではありません。信頼できる企業と長く付き合いたいという考え方です。外為法の世界では、怪しい相談もあります。例えば、弊所が出した該非判定書(外為法の輸出規制に該当するか否かを示す書類)を偽造して使う企業が出てくることもあります。ロシア制裁逃れの相談が来ることもあります。だからこそ、信頼できる相手とだけ仕事をしたい。

 

1日で終わる相談なら、無料で解決してしまう。逆に、長期的に信頼関係を築ける案件に注力する。そういうスタイルです。

 

――防衛分野への参入は、今後増えていくと思われますか。

大澤  増えると思います。これまでは「防衛」というだけで敬遠されがちでしたが、最近は雰囲気が変わってきました。防衛装備品の輸出の話も出ていますし、安全保障分野に関心を持つ企業も増えています。

 

ただ、参入する企業が増えるほど、「知らなかった」では済まないリスクも増えます。まずは知ることが大事です。知らなければ、相談しようとも思いませんし、調べようとも思いません。

 

そのため、先ほども申し上げた通り、情報を得る手段として経産省や防衛装備庁の情報発信を見る、ティア1企業からの情報提供を読む、防衛装備工業会や日本機械輸出組合などの業界団体に加盟するといった取り組みが考えられます。このような形で、最新情報を受け取れるようにしておくことが重要です。

 

取材を終えて

防衛産業への参入は単に「技術がある」「加工ができる」だけでは成立しない。防衛・安全保障分野では、製品の性能だけでなく、用途、相手、商流、技術情報の扱いまで問われる。

 

大澤さんが繰り返し強調したのは、「早い段階で知ること」の重要性だった。設計が終わってからでは遅い。量産ラインを組んでからでは手戻りが大きい。海外展開を見据えるなら、製品企画の段階から法規制を織り込む必要がある。

 

防衛産業は、今後、新たな成長分野として注目を集める可能性が高い。しかし、その入口には外為法という見えにくい壁がある。壁を避けるのか、乗り越えるのか。その判断には、技術と法律の双方を理解した実務的な視点が欠かせない。

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