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ウクライナ侵略、宇宙能力の重要性浮き彫りに

米軍のロケット砲HIMARS 
【画像出典】米国防総省:
https://media.defense.gov/2022/Oct/04/2003091253/1088/820/0/150306-F-OK506-212M.JPG
 

2023/12/06 NSBT Japan 編集部
衛星 ジャミング 情報技術 データ処理・分析 北アメリカ 東アジア 宇宙安全保障
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ロシアによるウクライナ侵略開始以来、宇宙空間の重要性への認識が高まりつつある。ウクライナの戦場では、極めて大きな国力、軍事力の差にも関わらずウクライナ軍はロシア軍に対して互角に渡り合っている。ウクライナの抵抗を支えるのは弾薬、車両、防空システムといった西側からの支援であり、中でも偵察衛星、衛星通信といった宇宙空間を通じたサービスは大きな役割を担っている。
 
従来の手法では、軍事力の比較は人員、兵器などの量、質の差を測定して行われてきた。しかしウクライナ侵略で明らかになったのは、これらの面で大きく劣る側が、宇宙能力によってパワーバランスを変化させられるということだ。このことは、軍事における宇宙能力の重要性や、今後軍事力の測定方法が根本的に見直される可能性を示している。
 
西側からウクライナに供与されたHIMARSは、ロシア軍の作戦拠点や兵站を効果的に攻撃し、ウクライナの反撃に大いに貢献してきた。この作戦を可能にしているのは、HIMARSの射程や精度もさることながら、衛星が収集した正確かつ最新の情報である。ウクライナは独自の偵察衛星を持っていないため、西側の衛星による情報なしには正確な攻撃は不可能である。注目すべきは、米国など西側諸国が「情報共有」といった曖昧な言葉を使い支援を実施していることだ。このことによって、支援国が「戦争への参加」や「全面的な支援」といった意味合いを持たない形式にとどめつつ、ウクライナへ強力な支援をしているのである。同時にロシアにとっては、衛星が形式上は軍事的な施設とみなされないために、攻撃を躊躇せざるを得ない。衛星は非軍事的な存在であり、攻撃することは重大なエスカレーションをもたらすと認識されている。
 
侵略初期の段階から、米政府と国防総省はウクライナとの情報共有についての透明性を保ってきた。ゆえに、ウクライナ軍がロシア軍の幹部をピンポイントで攻撃し殺害することに成功したことが明らかになった際には、米国内でも議論が巻き起こった。しかし米国は情報共有を続けており、ロシア側もこれに対して実効的な対策を打ってはいない。
 
ここで問題となるのは、ロシアは米国の衛星ネットワークを破壊する、あるいは諜報の拠点を攻撃することは能力、意思の面で可能であるかということだ。現段階でこの問いに対して専門家の間での合意はみられていない。しかし「中国人民解放軍はその能力を持っており、それを実行する可能性が高い」と米国の専門家らの間で一定の合意に達していることは、注目すべき点である。
 
2007年に中国は、破壊的な直接上昇型対衛星ミサイル(Direct-Ascent Anti-Satellite, DA-ASAT)の実験を行っている。すなわち中国は既に衛星を破壊する兵器を開発しており、そのことを国際社会に示しているのだ。さらに米軍によれば、中国は現在も対衛星ミサイルや軌道上を飛行する攻撃型兵器、レーザー攻撃などに積極的に投資を行っているという。衛星はこれらの攻撃に対して自らを防衛する手段を持たず、米国ではその脆弱性がかねてから指摘されているが、対策は十分には行われていない。
 
これまで宇宙は、米国とその同盟国が独占的に支配してきた領域であった。米軍は諜報において圧倒的な優位に立ち、戦場を支配しようとしてきた。中国はここから学び、米国の優位性を打ち消すとともに、中国軍の技術を近代化させてきたのだ。
 
さらにここ数十年で宇宙空間の重要性は劇的に高まっている。現在、各国の軍はGPS、通信衛星、偵察などのインテリジェンスに依存しており、作戦や兵器の動作はそれらの情報なしには不可能となっている。さらにウクライナでの戦闘は、宇宙能力がいかに軍事的な劣勢を覆すことができるかを示した。
 
急激に重要性が高まりつつある宇宙は、今後の安全保障、特に米ロ、米中対立における主戦場となる可能性がある。両国が今後どのような技術開発を行い、宇宙における優勢を手に入れるかに注目が集まっている。

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